下書きメモブログ

小説作ってみました

私が死んで生まれた日10-4【魂の記憶】

私は苛立っていた。

この星の為に星からの愛に答えるため、仲間達を守るため、貢献したい役に立ちたい。

なのにそんな私の熱意と情熱と意欲と希望はことごとく全否定された。

此処へ残って両親と共に戦えない。

移住先の星へ戦えぬ者達と向かい皆に寄り添えと両親は言った。

「お前にしかできない事がある」

そんな事を言われても『戦う』事しか取り柄がない私に他に出来る事とは一体何だというのだろう・・・。

「もぅっ!」このイライラをどうしていいかわからず私は外に出たい衝動にかられた。足早に玄関へ向かう。玄関までの途中、家の中に両親の姿が見当たらない。作戦の打ち合わせだろうか。いつも何処かへ出かける時は声をかけて行くのに、私が拗ねているから何も言わずに出て行ったんだろうか・・・。

そのまま外へ出ようとしたが、ふと(両親が戻った時に私が居ないと心配するだろうか・・・)と思い、置手紙をして家を出ることにした。

『泉へ行ってきます。』

両親にはこの一言で充分安心させられるだろう。

まぁ、置手紙などしなくても私はイライラしたり悩んだりした時は決まって泉へ行くので、きっと心配などしないだろうが・・・。

何も告げずに家を出た両親の行動を少し不安に感じたのか私までいつもと違う行動をとってしまった。

自宅から西へ20分ほど歩くと北の方向に森が見えてくる。森は緩やかな丘になっていてこんもりと盛り上がる大地に鬱蒼と木々が茂っている。森の南側から奥へとまっすぐに伸びた細い小道があってそこを10分ほど歩くと泉がある。直径50m位あるこの泉の水は深く透き通っていてやや青味がかっている。この星の水は琥珀色をしているのにここの泉の水だけ色が違う。

その理由が何故なのかは私は知っていた・・・。

この不思議な泉の周りには覆いかぶさりそうなくらい泉の水ギリギリまで草木が生えているところや砂浜の様なところとゴツゴツと大きな岩ばかりのところがある。

泉の中央へ向かってせり出す岩は大きな舞台のようになっていて私はいつもここへ来るとその岩の上に座り・・・

待つ。

静かに目を閉じそれが現れるのをじっと待つ。

やがて様々な音が耳へと流れ込んでくる。

風や風が草木を揺らす音、泉の水がどこか小川へ流れ出ているのかチョロチョロと心地よい音、羽をもつ生物達の羽音、泉の中を泳ぐ水中生物達が水を蹴る音、泉の水を飲みに来た動物達の鼻息や足音、降り注ぐ太陽のキラキラという光の音、草花が成長する音まで聴こえてくる。

泉には久しぶりに来たが、一時期は毎日のように通っていた。

ここへきて岩の上に座り静かに目を閉じ今と同じように聴こえてくる様々な音に聴き入る。そうやってあらゆる生命の美しさや尊さ強さや温かさを感じていちいち感動し幸せになり感謝するのが大好きだった。

そしてもう一つ、ここが大好きな理由がある。

・・・蛇龍だ。

この泉にはいつからなのか蛇の様な龍が住みついていた。

泉の半分ほどの長さで背中には身体の中間から頭に向かって徐々に濃くなっていくややウェーブがかった毛が生えており、毛の生えていない皮膚には鱗の様なものがみえていた。手足は何処にも見当たらなく、頭は私の背丈ほどの大きさがあった。

眩しいくらいに銀色に輝き、ため息が出るほど美しかった。

私の知っている蛇族や龍族とは全く違う姿のこの美しい生命は蛇族の様な残酷で愚かな種族ではなく、龍族ほど厳格で誇り高くもない。とても純粋で無邪気な子供の様なエネルギーを発していた。

同じ種族の中では若い方なのか実際に子供の様によく笑う生き物だった。その笑い方といったら「ヒッゲッヒッゲッ」となんとも言い表すのが難しい独特な音だったが確かに笑っていた。その笑いを聴くと蛇龍がどんなにつまらない冗談を言っていたとしても私は可笑しくなってしまい最後には互いにゲラゲラ笑っていたのだった。

私は悩んだり嫌な事があるとここへやってきて蛇龍と他愛もないおしゃべりをする。

蛇龍は他の星も旅したことがあるのか色々な事を知っていた。実に知的で物知りでユーモアもあったので笑っている時以外は学者かおじいちゃんのようだった。

私はこの蛇龍と時間を忘れて話し、冗談を言い合って大笑いしてすっきりして家へ帰るのだ。

悩んでいる時の私の訪問は蛇龍にはすっかり私の心中はお見通しであって、おしゃべりの最後には愚痴を聞いてもらうというのが定番になっていたので、実際はおしゃべりを楽しんですっきりというよりそれですっきりして帰っていたようなものだった。

・・・付け加えておくが、もちろん悩んでいない時もここには来ている。

彼が話す事はとても面白くて興味深いものばかりで・・・あ、性別は聞いていないのだがおそらく「彼」であると思う。

そうやって毎日来ていた時があったくらいここは大好きで大切な場所なのだ。

そしてこの泉が他の水と違う色をしているのは蛇龍のエネルギーを感じ水が共鳴しているから・・・らしい。水質的には他と何も変わらないと蛇龍に教えてもらった。

全ての宇宙の人・モノ・こと、は常に互いに影響しあっている。とも教えてもらった。

私が死んで生まれた日10-3【魂の記憶】

「星再生計画」の事について父はあれこれ考えを巡らしているらしく、しばらく黙っていた。母は他の人達と長の決定について話している。

考え込んでいる父の元に数人の男達が集まってきた。同時に私は男達に押しのけられ少しよろめいた。何やら深刻そうに話し合っている。これからの作戦についてだろうか・・・。

聞き耳を立てて父達の話を盗み聞きしようとしたが辺りが騒々しいのと集まってきた体格のいい男達が壁になってまったく会話が聞こえない。もっと近づこうとしていると母に呼ばれその場を離れなければならなくなった。

もどかしい気持ちで母の元へ行くと母は一度家へ戻ろうと私に微笑んだ。

「作戦の事や後の事は彼(父)に任せてあとで話しを聞きましょう」

私はまだこの場に残り父達の話を聞きたかったが辺りの騒々しさはどんどん増していて各々自分の主張をしている者がいたり不安を露わにし攻撃的になっている者もいたため、母は一度この場を離れた方がいいと判断したのだろう。

確かに無駄な争いに巻き込まれるのは面倒だ。私は母に同意して自宅へ帰ることにした。

「仲間内で言い争っている場合ではないのに・・・。」

だが彼らの気持ちもわかる。長年、星を守るために戦ってきていたのに突然 長はその星を手放すと決定したのだ。守るため、この土地に居られるため、きっと逆転できる方法があるはずと希望を捨てなかった、死んでいった者たちの願いを叶えるため、仇をうつために戦ってきたのは何だったんだと怒りが込み上げてきてもなんら不思議はない。長にしてもこの決定には心が締め付けられる想いだろう。しかしこの決定が全てを救うための一番の最善策なのだ。たとえかなりの痛みを伴う事だとしても・・・。

私達が居た長が住む大会議場と自宅まではさほど遠く離れてはいない。

母と私は徒歩で自宅まで帰ることにした。というか、お互い何も言わずにトボトボと歩いて来てしまっていた。母も私同様に歩きながら考え事がしたかったのかもしれない。

薄いピンクの大地から色とりどりの植物が所狭しと覆い茂っている。青くキラキラとクリスタルのように輝く小さな花たちは他の植物達が日の光をいっぱいに受けようと上へ上へ伸びるのとは反対に地を這うように根を張り沢山の小さな葉を広げ沢山のちいさな花を咲かせていた。まるで夜の満点の星空のように光を反射してキラキラと大地で瞬いている。近くを流れる小川は琥珀色で、心地よい音をたてて流れている。この琥珀色の水は飲めば力が沸き、浴びたり浸かったりすれば疲労が取れ傷も癒される。

もてあましたエネルギーを発散するかのようにこの星は本当に美しく輝いている。

だが、蛇族に略奪された土地にはこの輝きはもうないと聞いた。植物は死に絶え大地は黒くくすんでしまっているそうだ。エネルギーの源である鉱物をすべて取られた結果、何もない混沌の大地になってしまっているらしい。

私は私利私欲の為に他者のものを平気で奪い取る蛇族に心底嫌悪した。

この美しい景色をもう二度と見れないと思うと本当に悲しい。

生まれ変わる星も今の星と同じコアを持つ。きっと今の私と同じかそれ以上に美しい大地を子孫たちが見れるに違いないと私は確信していた。

「未来の私達の子孫と星の為に戦う」

私は戦士の両親から生まれた子供だ。幼いころから鍛錬し戦うための知識や技術は身についていると自負している。そしてこれまでの蛇族との戦いで身についた感覚も豊富だと思っている。

「私が戦いに加わることで星と皆に貢献できるはず」

むしろ戦い以外で私に貢献できることはないと思っていた。

そんな私の怒りと熱意と使命感に、母は気づいているのかいないのか終始無言のままだった。

私達がこじんまりした箱型のシンプルで真っ白な我が家へ到着して一夜明けてから父は帰宅した。

父が帰宅早々に私は矢継ぎ早に質問をしたために父が笑いだす。

「そんなに興奮するな、とりあえず大まかに決定したことを言うぞ。」

父は作戦中や作戦に関わるあらゆる任務が完了するまでの間一時的に指揮官補佐の役を引き受けた事。自分も最前線へ赴くこと、任務には母も参加する事、各々の持ち場の話や作戦開始日程や今後の動きなど丁寧に私と母に説明してくれた。

「ん?」

何か大事な事を忘れていませんか?お父様。

ここまで話し終えた父の口から私の参加任務のことを聞いていない。

まさか?!

私は任務に参加させずに引っ越し先の星に先に行っていろとでも言うんじゃ?!

「・・・・???」

父も「ん?」の表情で何の事だと言わんばかりにしらばっくれている。

いやいやいや「ん?」じゃない!「星の為に戦う」と決意している私の情熱はどうしたらいいんだ!納得できない!納得できないぞ!

「私も星の為に戦うって決めたんだから!」

私は息を荒げて怒鳴るような声で父に対して抗議した。

父は肩をすくめて、困ったじゃじゃ馬を娘に持ったものだというような表情で言った。

「お前にはお前にしかできない事があるんだぞ?」

母も大事な娘を戦いに参加さたくないのでウンウンとうなずいて父の言葉を肯定している。「私達も任務が終わったらすぐあなたの後を追うから。戦えない者達と先に行って彼らを守って寄り添ってあげてほしい。」と母は言った。

それはそうだろう、両親の気持ちはわかる今回は本当に危険な任務だから。

そうはいっても私の気分はMAX戦いに向いていたのに、戦う事しかできない私に平和な星へ向かって人々に寄り添えって・・・。強くなる事ばかり教えてきた両親からの言葉とは思えないものが飛んできた。「お前にしかできない事」って戦いの事じゃないの?!私は混乱と動揺となんだか仲間外れにされたような気分と「使い物にならない」と言われたようで落胆した。

 

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私が死んで生まれた日10-2【魂の記憶】

長は『星を捨て破壊する』と決断した。

まだやれることがあるのではないかと反対する者も多かったが

戦えぬ者達を守りたいという長の固い決断にみな従うことにした。

星と対話が出来る長はながい間星とも話し合ったとみなに伝え「これは星の意志でもある」と付け加えた。

私達の星は永い間 蛇族に身体をえぐられ身を搾取され続けたためにコアのエネルギーが著しく衰えてしまい星としての形も保っているのがやっとの状態になってしまっていて今までは宇宙の他の星からもエネルギーを分けてもらっていたが互いが干渉しずらい遠く離れた位置の周期に入ってしまうため死んでしまうのも時間の問題だった。

それならばまだコアが生きているうちに自らを破壊し、再生を試みるという。

塵になってはじけ飛んだ星のかけら達はわずかに残ったコアのエネルギーを頼りに再び集まるだろう。そして私達の星は生まれ変わる。だが、これは宇宙の理を無視した危険な賭けでもある。役目を終えた星は消滅後エネルギーの粒子になり一度宇宙へ還る。そして混ざり合い力を蓄えて新たにコアエネルギーができてから星が生まれてくるのだが、今回は私達の星のコアエネルギーを残したまま星を再生するのだ。どんなことが起きるか誰にも予想できない。もしかしたら未熟なまま再生しエネルギーの偏りが出たり、私達の子孫が住めない星になるかもしれない。

それに再生には永い永い時が必要だ。

なぜ、星はあえてそんな賭けをするのか・・・

宇宙の理に従った道を進んでもいいだろう、だがそうやって新たに生まれた星は私達の星ではない。生まれる時期も場所も星の性質だってどうなるかわからない。私達は母なる星を愛していたし星も同じく私達を愛していた。星が「まだ私達と共にいたい」と望んだのだ。珍しいと言えば珍しい。前例がないから試みたいという意思も伝わる。

長は「星の意志を尊重するために他の星々の光の存在達や大いなる存在にも助けを求めた。じきに使いが我々のもとにやってくるだろう。」と言い残し自室へ籠ってしまった。少しの間沈黙が続いたがそれぞれにボソボソと会話が聞こえ始めやがて大勢が色んな事を話し始め辺りがざわついた。「慣れ親しんだ愛おしい星を捨て何処に行けばいいというんだ」と声を荒げる者や「星と共に戦って共に散ろうではないか」と荒ぶる者や「星の意志ならば…」と考え込む者、「新しい場所へ行っても変わらずやっていけるんだろうか」と不安がる者もいた。私は共に長の話を聞きに父と母と一緒だった。父は眉間にしわを寄せ考え込んでしまっている。

父は蛇族がこの星に侵略し略奪を仕掛けてきたあの日に生き残った者達を助け出した英雄だそして軍の総司令官の側近だった。あの日、蛇族の暗殺者の手にかかり総司令官は命を落とした。内部と外部と両方から攻撃を受け皆がパニックになっている時に動揺する隊員たちをピシャリと制し先頭に立ち皆を率いた。新たなリーダーに皆すがり希望をみた。路頭に迷った者たちと生き残った隊員達とこの地、唯一凶行をまぬかれた母の故郷にたどり着き態勢を整えてなんとかこの場とこの地域の鉱物資源を死守した父は一時争いがおさまるとあっけなくリーダーから退いた。新たな総司令官にとの声が上がる中、父は知恵があり若く勇ましいリーダーが適任だとやや年老いた自分には大役過ぎると断った。母の故郷の長が皆の長となった。彼はこの星の数いた長達の中でとりわけ感がよく、他の星々の存在や星との会話もできたために今回の重大な決断がたった今言い渡されたのであった。

母は私を見つめて「あなたはどう思うの?」と言いたげな視線を投げかけている。しばらく母と見つめあって私は口を開いた。「新しい星やその土地に住む人達に出会うのはすごく刺激的だし興味があるけど、まずは星の意志の実行と蛇族撲滅のための作戦に参加しないと…そうでしょう?お父さん。」父はしばらく無言のままだった。母は何も言わずに今度は父に「あなたはどう思うの?」の視線を投げかけている。

 

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私が死んで生まれた日11

気を失い湯船に沈みそうになった楓を抱き上げ浴室を出た男は、楓の悲鳴を聞いて駆けつけたユウジや美由紀、テツに取り囲まれていた。
男は全裸で全裸の楓を抱きかかえていたためみんな「何が起こってる??」と、一瞬キョトンとしたが、ユウジにはこの男に見覚えがあった。
「楓ちゃんをどうする気だ!!」とユウジがスゴんだので男は面倒そうに口を開いた。
「そう騒ぐな。まず楓を休ませてやりたいんだが?」
いつのまにか美由紀が楓を抱えた男の背後をすり抜け脱衣所からバスタオルを持ってきていた。
「濡れてるから楓ちゃんの体が冷えちゃう。」
そう言って楓にバスタオルをかけた。
男が「あぁ、そうだな。風邪を引かせてしまうな。」
そう言った瞬間だった。楓と男を中心に小さな竜巻が起きた。窓も開けていないのに突風が吹いた。風がおさまると楓と男の濡れた体は完全に乾いていた。男を取り囲む様に立っていたテツ、ユウジは突風によって楓と男から引き剥がされた水しぶきを浴びて「うわぁ!」とか「冷た!」と叫んでいた。美由紀は楓にかけたバスタオルが飛んできて難を逃れる。
「ユウジくん!布団敷いて!」美由紀がへばりついたバスタオルを剥ぎ取りながら脱衣所へ戻り楓の着替えをかき集め言った。
「う、うっスッ!」
ユウジはハッと我にかえり昼間お祓いをした部屋の押入れを開け来客用の布団を引っ張り出した。
テツは「風を操るのか....。」と呟いたまま考え込んでしまっている。美由紀はそんなテツを(こんな時に何ボーッとしてんのよ!)と言わんばかりに睨みながら男に視線を移し聞いた。
「救急車呼ばなくて大丈夫なの?楓ちゃんどうしちゃったの?」
楓を気遣う言葉に危険人物ではないと瞬時に判断したのか美由紀は疑いもせず男に接している。
「楓は問題ない。ただ、いま意識が違う世界に行っている、何かあれば俺の仲間の方がうまく対処できるだろう。救急車は呼ばなくていい。」
考え込んでいたテツがハッと我に返り、敷かれた布団へ楓をそっと寝かせている男に口を開いた。
「楓が実体化したのと関係あるな、まだ自分に起きてる事を理解していない楓には危険じゃないか?」
すると男は
「この世に肉体の器を持たないまま実体化してしまった以上、はやく自分が何者か何が起きているのかを理解できなくても叩き込まんとならん。魂には負担になるが何も知らずに実体化している方が危険だ。順番は変わってしまったが楓なら大丈夫だろう、今までもそうだったしこれからもそうだ。心配いらん。」
男はそう話すと畳の上に素っ裸のままドスリと腰を下ろして目を閉じ、続けた。
「楓の様子を感じ取っていなければならん、心配だろうが意識が戻るまで2人だけにしてくれないか」
もうこれ以上は後にしてくれと言わんばかりのオーラ全開の男にテツはもう一つだけと質問した。
「あんたは龍族の匂いがする。もしかして楓もそうなのか?」
テツの質問に男の眉がピクリと動いた
「察しがいいな、お前の言ってる事は正解だ。だが楓は違う。こいつは俺の嫁だが龍族の血は流れていない。それが俺がここにいる理由でもある。詳しくは楓が戻ってからだ
お前たちにも協力してもらうぞ。」
そう言い終えると男は目を閉じ石のようになってしまった。おそらく集中して違う世界へ行ってしまった楓の意識の様子を探っているのだろう。
「嫁??ってどういうことだ??・・・・あぁ・・・そうか・・・。」テツは独り言をつぶやいて部屋を出て行ってしまった。
部屋に残された美由紀とユウジは顔を見合わせ何のことかわからないと首を傾げあったが、しばらく楓と男をそっとしておこうと部屋を出た。
美由紀とユウジは何かあったらすぐ駆け付けられるように隣接した食堂で待機することにした。
お茶でも淹れてのんびり待とうかと美由紀が自分とユウジの湯飲みを盆へのせて持ってきた。
「ユウジくん。あの男の人、龍族の匂いがするってテツが言ってたけど・・・何それ。」ユウジの前へ湯飲みを置きながら美由紀はつっけんどんに聞いた。
湯飲みから緩やかに上る湯気に少しの落ち着きを取り戻したユウジが答える。
「オレにもさっぱりっス。ただ・・・。」何かをかすかに思い出したような表情でユウジが部屋の蛍光灯をじっと見つめる。
「ただ?なになに。」美由紀は早くその先の話が聞きたいと急かした。
「たしか・・・テツさん、昔オレがまだココへ来てない時にちょくちょくあそびにきてたんスけど、その時こんな話してくれたっス。」
2口お茶をすすると、フゥーと深呼吸をして続けた。
「テツさんには昔の・・・前世の魂の記憶が断片的だけど蘇ることがあるそうっス。その記憶の星は地球に似てるけど地球じゃなくて生きているモノすべてココとは違うと言ってたっス。空はピンクで海は黄色だったそうっス。そこでテツさんが一緒に過ごした仲間が西洋のドラゴンの様な姿をした龍族だそうっス。あ、ちなみにテツさんは地球の人間じゃないけど人間だったそうっス。龍族は蛇の様な頭の蛇族と戦争してたそうっス。」そういうとユウジはお茶をすすった。
「テツはそういう話、全然私にしてくれないのよねぇ。あの男の人はドラゴンに見えないけど変身でもしてるのかしらね・・・。それに、楓ちゃんを『嫁』と言ってたわね。もう、なんのことなのっ」美由紀は今日一日の情報量や謎がたくさんありすぎてもう考えたくないようだ。というか、考えるのをやめたようだ。
そんな美由紀を横目でチラッとみたユウジは、もう少し情報出しますけど怒らないでくださいねという雰囲気で話し出した。
「テツさん、龍族と蛇族はこの地球にも関係あるんじゃないかって言ってたっス。両族とも高次の存在だから一般人には存在してることさえわからないだろうけど、テツさんは何回か存在を感じたことがあるって言ってたっス。その話をいま思い出してて気づいたんスけど、オレの霊力スカウターが機能するのは4次元の存在っス。だからあの男は4次元以上の高次元のおっさんっス。」言い終えるとユウジは美由紀を見た・・・。怒ってはいなかったが、話が脳みそまで届いてないのかキョトンとしていた。

私が死んで生まれた日 10-1 【魂の記憶】

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【魂の記憶】
大地から針のように突き出た岩の塔、その先に腰を下ろし眼下に広がる地の表面を眺める。視界の左には乾いた大地が、真ん中には海のように大きな湖、右にはカラフルな植物のジャングルが見える。
この星はとても美しい。
ココには様々な色形の生き物や植物が生きている。
この地を統治する龍族は争いを好まず寛大だ、他星からの移民や難民を受け入れ様々な文化を取り入れて自文化と融合してきた。それゆえ龍族を頼り問題ごとを持ち込む他星人も少なくない。伝統や規律、礼節を重んじていて石頭なところが少々あり気難しいが味方につければ非常に頼りになる、だが一度敵に回せば一族一人残らず消え絶えるまで潰すとういう一面もある。
そんな怒らせると怖いともっぱら噂の龍族の王に助けられて私達はこの星にいる。
私は戦争の中で産まれた。両親は星を守る戦士だった。
両親の住む星は良質な鉱物資源が豊富だった。他星 他民族との交易が盛んで長い間繁栄を極めていた。いくつかの族で資源豊富な土地をそれぞれ管理していた。詐欺や盗みを働く者もいたが族間での争いはなかった。だが、ある日 他の星から資源を根こそぎ奪い取ろうとする者達が現れた。姿形からその者達を蛇族と呼んだ。そのために両親の様な戦いに長けた者を集め、星の資源を守る軍隊が各族の長たちによって作られた。
敵はずる賢く饒舌な嘘つきで味方を装い星の各族へ潜り込み言葉巧みに資源を奪い取ってしまった。小さな争いはあったものの各族同士の仲は良く平和だった私達の星は略奪戦争でカオスになった。蛇族は各族の土地で同時に制圧を開始、長たちを次々と殺害、民を虐殺した。軍の最高司令官も暗殺され部下達にとっては内部から崩されてしまい不意をつかれた形となった。
この時 私の母は軍本部から暇をもらい里帰りしていた。母の一族の土地は各族の土地から離れた所にあり交易先も少なかった為いち早く異変に気づき裏切者と侵入者を捕らえ、母の活躍もあって難を逃れていた。
司令官の側近だった父は戦いながら各族の生き残りと戦友たちを集め改めて部隊を作りかろうじて難を逃れた母の一族の土地へ向かう事にした。先行で数人編成の隊を向かわせ、長へ現状を報告、援軍と救援を求めた。
そんな戦いのなか両親は互いに惹かれ合い結婚、そして私が産まれた。
諜報隊によって蛇族の事がある程度わかったものの突然他星からやってきた為に情報が少ない。しかも長期の戦争で兵の数は減っているはずなのに軍力が全く落ちないそれどころか兵が増えている。何処の星に拠点がありどこから来ているのか、全体でどれくらいの人数、規模なのか謎だった。
あの手この手で攻めてくる略奪者を追い払うので精一杯で長く終わりの見えない戦争で皆 疲弊した。
多くの者が死んでいった。
そして長は決断する。
星を離れ、そして星を略奪者もろとも破壊すると。長く続く一族の悲劇を終わらせたいと...。
そのとき私はもう大人になっていた。

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私が死んで生まれた日 9

視覚の線がプチッと切れたかの様に真っ暗で何も見えなくなり、今は浴室で一生懸命に湿気を室外へ吐き出そうと働いていた換気扇のモーター音も聞こえない。
孤独感がふと湧いてきたが、手にはまだオッサンの手の感触があり目には見えないがまるで今も握ってくれている様だ。不思議と怖くない。
ふと薄明るく青白い紐のような光が見えた。遠くから近づいてきているようだ。紐のように見えた光は蛇くらいまで大きくなり、よく見たらそれは知らない.....文字だろうか?記号だろうか?一列に並んで蛇のようにウネウネと私の周りを回りながら増えていった。今度はランダムに棚に置かれたモニターのようにあちらこちらで画像や動画が現れ、これらもドンドン増えていく。何の画像なのかほとんどわからなかったが、いくつかオッサンに似た人物が映ってるものや見覚えのある景色の画像があった。文字列の蛇や画像達は私を中心に何重もの輪をつくり光を強めたり弱めたりしながらグルグル私の周りを回っている。
何か.....応援されてる様な....急かされてる様な....。
................................。
.........................。
..........ん?
ふとオッサンに言われた事を思い出した。

「なんだ?思い出さんか(笑)失礼な奴だな」

.......ん?
..........。
これ.....。

私の頭の中で何かが弾けた。
靄がかかった視界が一気にスッキリした。
(これ全部私の記憶だ!!!前世のずっとずっと昔からの記憶!)

とたんに何百年もの間の様々な記憶が一斉に蘇りパニック状態になる。
情報の多さに負け脳がパンク寸前だ。
悲しかった事、幸せだった事、色々な感情が押し寄せる中で意識が遠くなっていき....
......目を閉じた。

私が死んで生まれた日8

浴槽にたっぷりと張られたお湯の中にゆっくり息を吐きながら頭のてっぺんまで浸かる。柔らかく暖かい液体の中は居心地が良かった。

死んだ時のことを思い出す。一瞬の出来事すぎて痛みはなかった。嫌な奴も浮気?(アッチが本命?)相手と病院送り、とりあえず生きてる時の裏切りへの恨みも晴らした。成仏できるだろうと思った矢先に身体がまるで生きてるかの様に実体化した。私も重体で病院にいるあの2人 同様.....

生かされている。

......かなり歪んだ形で。この世の理をガン無視して私は蘇った。ゲームならチートだ。違法だ。アカウントを抹消されるだろう。

(BANされたりしてw)

この世でチート行為してるなら取締る存在が私の元へ来るだろう。そうなったらどうなるんだろうか、抹消.....されるんだろうか.....。

まぁ、そうなれば本当の私の願いが叶うことになる。何も怖くない。

でも、苦痛に満ち溢れたこの世でいう『地獄』へ送られる事になったら.....?

地獄ってどんな感じなんだろう.....。

そう考えていてふと思い出した。

私はどれくらい湯船に使ってるんだ??そっか元々死んでるから息吸わなくていいのか(笑)

その時、湯船のお湯がゆらゆら揺れた。

何かと思い目を開けると大きくて筋肉質のしまった脚が見えた。

「うわぁ!!!!!」

ビックリしてお湯から顔を出すと、目の前にオッサンがいる。

伸び放題の長髪はクセ毛なのか少しウェーブがかかり緩やかに波打っていた。アボリジニ系の彫の深い目鼻立ちの顔。筋肉質の身体は何もまとっていなく、素っ裸で浴槽の縁に座っていた。

「よぉ(ニヤッ)」

オッサンはそう言うと、ニヤケ顔で前に乗り出し顔を近づけた。

知らない。知らないぞ?こんな人!でも、相手は何故か私をよく知ってる様な表情を浮かべている。

「だだだ、誰ぇぇぇ???!!!」

「なんだ?思い出さんか(笑)失礼な奴だな」

オッサン......そう言えば雷が落ちた時、ユウジさんが私を見てた霊体がいたって....。たしか....『大柄で長髪のオッサン』......??あれ?この人か??

混乱して目が泳ぎまくりの私を呆れ顔で見ていたオッサンは「ほれ」と手を出した。

「????」

キョトンとしている私に「ほれ、手ェだしてみぃ」とオッサンは要求する。

(こんな状態で初めましての握手はおかしいだろ@@:)

何故か言われる通りに恐る恐る手を出す私。

オッサンは大きな手でしっかり私の手を握ると

「準備はいいか?」

と言ってニヤッと片方の口角を上げた。