下書きメモブログ

小説作ってみました

私が死んで生まれた日11

気を失い湯船に沈みそうになった楓を抱き上げ浴室を出た男は、楓の悲鳴を聞いて駆けつけたユウジや美由紀、テツに取り囲まれていた。
男は全裸で全裸の楓を抱きかかえていたためみんな「何が起こってる??」と、一瞬キョトンとしたが、ユウジにはこの男に見覚えがあった。
「楓ちゃんをどうする気だ!!」とユウジがスゴんだので男は面倒そうに口を開いた。
「そう騒ぐな。まず楓を休ませてやりたいんだが?」
いつのまにか美由紀が楓を抱えた男の背後をすり抜け脱衣所からバスタオルを持ってきていた。
「濡れてるから楓ちゃんの体が冷えちゃう。」
そう言って楓にバスタオルをかけた。
男が「あぁ、そうだな。風邪を引かせてしまうな。」
そう言った瞬間だった。楓と男を中心に小さな竜巻が起きた。窓も開けていないのに突風が吹いた。風がおさまると楓と男の濡れた体は完全に乾いていた。男を取り囲む様に立っていたテツ、ユウジは突風によって楓と男から引き剥がされた水しぶきを浴びて「うわぁ!」とか「冷た!」と叫んでいた。美由紀は楓にかけたバスタオルが飛んできて難を逃れる。
「ユウジくん!布団敷いて!」美由紀がへばりついたバスタオルを剥ぎ取りながら脱衣所へ戻り楓の着替えをかき集め言った。
「う、うっスッ!」
ユウジはハッと我にかえり昼間お祓いをした部屋の押入れを開け来客用の布団を引っ張り出した。
テツは「風を操るのか....。」と呟いたまま考え込んでしまっている。美由紀はそんなテツを(こんな時に何ボーッとしてんのよ!)と言わんばかりに睨みながら男に視線を移し聞いた。
「救急車呼ばなくて大丈夫なの?楓ちゃんどうしちゃったの?」
楓を気遣う言葉に危険人物ではないと瞬時に判断したのか美由紀は疑いもせず男に接している。
「楓は問題ない。ただ、いま意識が違う世界に行っている、何かあれば俺の仲間の方がうまく対処できるだろう。救急車は呼ばなくていい。」
考え込んでいたテツがハッと我に返り、敷かれた布団へ楓をそっと寝かせている男に口を開いた。
「楓が実体化したのと関係あるな、まだ自分に起きてる事を理解していない楓には危険じゃないか?」
すると男は
「この世に肉体の器を持たないまま実体化してしまった以上、はやく自分が何者か何が起きているのかを理解できなくても叩き込まんとならん。魂には負担になるが何も知らずに実体化している方が危険だ。順番は変わってしまったが楓なら大丈夫だろう、今までもそうだったしこれからもそうだ。心配いらん。」
男はそう話すと畳の上に素っ裸のままドスリと腰を下ろして目を閉じ、続けた。
「楓の様子を感じ取っていなければならん、心配だろうが意識が戻るまで2人だけにしてくれないか」
もうこれ以上は後にしてくれと言わんばかりのオーラ全開の男にテツはもう一つだけと質問した。
「あんたは龍族の匂いがする。もしかして楓もそうなのか?」
テツの質問に男の眉がピクリと動いた
「察しがいいな、お前の言ってる事は正解だ。だが楓は違う。こいつは俺の嫁だが龍族の血は流れていない。それが俺がここにいる理由でもある。詳しくは楓が戻ってからだ
お前たちにも協力してもらうぞ。」
そう言い終えると男は目を閉じ石のようになってしまった。おそらく集中して違う世界へ行ってしまった楓の意識の様子を探っているのだろう。
「嫁??ってどういうことだ??・・・・あぁ・・・そうか・・・。」テツは独り言をつぶやいて部屋を出て行ってしまった。
部屋に残された美由紀とユウジは顔を見合わせ何のことかわからないと首を傾げあったが、しばらく楓と男をそっとしておこうと部屋を出た。
美由紀とユウジは何かあったらすぐ駆け付けられるように隣接した食堂で待機することにした。
お茶でも淹れてのんびり待とうかと美由紀が自分とユウジの湯飲みを盆へのせて持ってきた。
「ユウジくん。あの男の人、龍族の匂いがするってテツが言ってたけど・・・何それ。」ユウジの前へ湯飲みを置きながら美由紀はつっけんどんに聞いた。
湯飲みから緩やかに上る湯気に少しの落ち着きを取り戻したユウジが答える。
「オレにもさっぱりっス。ただ・・・。」何かをかすかに思い出したような表情でユウジが部屋の蛍光灯をじっと見つめる。
「ただ?なになに。」美由紀は早くその先の話が聞きたいと急かした。
「たしか・・・テツさん、昔オレがまだココへ来てない時にちょくちょくあそびにきてたんスけど、その時こんな話してくれたっス。」
2口お茶をすすると、フゥーと深呼吸をして続けた。
「テツさんには昔の・・・前世の魂の記憶が断片的だけど蘇ることがあるそうっス。その記憶の星は地球に似てるけど地球じゃなくて生きているモノすべてココとは違うと言ってたっス。空はピンクで海は黄色だったそうっス。そこでテツさんが一緒に過ごした仲間が西洋のドラゴンの様な姿をした龍族だそうっス。あ、ちなみにテツさんは地球の人間じゃないけど人間だったそうっス。龍族は蛇の様な頭の蛇族と戦争してたそうっス。」そういうとユウジはお茶をすすった。
「テツはそういう話、全然私にしてくれないのよねぇ。あの男の人はドラゴンに見えないけど変身でもしてるのかしらね・・・。それに、楓ちゃんを『嫁』と言ってたわね。もう、なんのことなのっ」美由紀は今日一日の情報量や謎がたくさんありすぎてもう考えたくないようだ。というか、考えるのをやめたようだ。
そんな美由紀を横目でチラッとみたユウジは、もう少し情報出しますけど怒らないでくださいねという雰囲気で話し出した。
「テツさん、龍族と蛇族はこの地球にも関係あるんじゃないかって言ってたっス。両族とも高次の存在だから一般人には存在してることさえわからないだろうけど、テツさんは何回か存在を感じたことがあるって言ってたっス。その話をいま思い出してて気づいたんスけど、オレの霊力スカウターが機能するのは4次元の存在っス。だからあの男は4次元以上の高次元のおっさんっス。」言い終えるとユウジは美由紀を見た・・・。怒ってはいなかったが、話が脳みそまで届いてないのかキョトンとしていた。