私が死んで生まれた日10-4【魂の記憶】
私は苛立っていた。
この星の為に星からの愛に答えるため、仲間達を守るため、貢献したい役に立ちたい。
なのにそんな私の熱意と情熱と意欲と希望はことごとく全否定された。
此処へ残って両親と共に戦えない。
移住先の星へ戦えぬ者達と向かい皆に寄り添えと両親は言った。
「お前にしかできない事がある」
そんな事を言われても『戦う』事しか取り柄がない私に他に出来る事とは一体何だというのだろう・・・。
「もぅっ!」このイライラをどうしていいかわからず私は外に出たい衝動にかられた。足早に玄関へ向かう。玄関までの途中、家の中に両親の姿が見当たらない。作戦の打ち合わせだろうか。いつも何処かへ出かける時は声をかけて行くのに、私が拗ねているから何も言わずに出て行ったんだろうか・・・。
そのまま外へ出ようとしたが、ふと(両親が戻った時に私が居ないと心配するだろうか・・・)と思い、置手紙をして家を出ることにした。
『泉へ行ってきます。』
両親にはこの一言で充分安心させられるだろう。
まぁ、置手紙などしなくても私はイライラしたり悩んだりした時は決まって泉へ行くので、きっと心配などしないだろうが・・・。
何も告げずに家を出た両親の行動を少し不安に感じたのか私までいつもと違う行動をとってしまった。
自宅から西へ20分ほど歩くと北の方向に森が見えてくる。森は緩やかな丘になっていてこんもりと盛り上がる大地に鬱蒼と木々が茂っている。森の南側から奥へとまっすぐに伸びた細い小道があってそこを10分ほど歩くと泉がある。直径50m位あるこの泉の水は深く透き通っていてやや青味がかっている。この星の水は琥珀色をしているのにここの泉の水だけ色が違う。
その理由が何故なのかは私は知っていた・・・。
この不思議な泉の周りには覆いかぶさりそうなくらい泉の水ギリギリまで草木が生えているところや砂浜の様なところとゴツゴツと大きな岩ばかりのところがある。
泉の中央へ向かってせり出す岩は大きな舞台のようになっていて私はいつもここへ来るとその岩の上に座り・・・
待つ。
静かに目を閉じそれが現れるのをじっと待つ。
やがて様々な音が耳へと流れ込んでくる。
風や風が草木を揺らす音、泉の水がどこか小川へ流れ出ているのかチョロチョロと心地よい音、羽をもつ生物達の羽音、泉の中を泳ぐ水中生物達が水を蹴る音、泉の水を飲みに来た動物達の鼻息や足音、降り注ぐ太陽のキラキラという光の音、草花が成長する音まで聴こえてくる。
泉には久しぶりに来たが、一時期は毎日のように通っていた。
ここへきて岩の上に座り静かに目を閉じ今と同じように聴こえてくる様々な音に聴き入る。そうやってあらゆる生命の美しさや尊さ強さや温かさを感じていちいち感動し幸せになり感謝するのが大好きだった。
そしてもう一つ、ここが大好きな理由がある。
・・・蛇龍だ。
この泉にはいつからなのか蛇の様な龍が住みついていた。
泉の半分ほどの長さで背中には身体の中間から頭に向かって徐々に濃くなっていくややウェーブがかった毛が生えており、毛の生えていない皮膚には鱗の様なものがみえていた。手足は何処にも見当たらなく、頭は私の背丈ほどの大きさがあった。
眩しいくらいに銀色に輝き、ため息が出るほど美しかった。
私の知っている蛇族や龍族とは全く違う姿のこの美しい生命は蛇族の様な残酷で愚かな種族ではなく、龍族ほど厳格で誇り高くもない。とても純粋で無邪気な子供の様なエネルギーを発していた。
同じ種族の中では若い方なのか実際に子供の様によく笑う生き物だった。その笑い方といったら「ヒッゲッヒッゲッ」となんとも言い表すのが難しい独特な音だったが確かに笑っていた。その笑いを聴くと蛇龍がどんなにつまらない冗談を言っていたとしても私は可笑しくなってしまい最後には互いにゲラゲラ笑っていたのだった。
私は悩んだり嫌な事があるとここへやってきて蛇龍と他愛もないおしゃべりをする。
蛇龍は他の星も旅したことがあるのか色々な事を知っていた。実に知的で物知りでユーモアもあったので笑っている時以外は学者かおじいちゃんのようだった。
私はこの蛇龍と時間を忘れて話し、冗談を言い合って大笑いしてすっきりして家へ帰るのだ。
悩んでいる時の私の訪問は蛇龍にはすっかり私の心中はお見通しであって、おしゃべりの最後には愚痴を聞いてもらうというのが定番になっていたので、実際はおしゃべりを楽しんですっきりというよりそれですっきりして帰っていたようなものだった。
・・・付け加えておくが、もちろん悩んでいない時もここには来ている。
彼が話す事はとても面白くて興味深いものばかりで・・・あ、性別は聞いていないのだがおそらく「彼」であると思う。
そうやって毎日来ていた時があったくらいここは大好きで大切な場所なのだ。
そしてこの泉が他の水と違う色をしているのは蛇龍のエネルギーを感じ水が共鳴しているから・・・らしい。水質的には他と何も変わらないと蛇龍に教えてもらった。
全ての宇宙の人・モノ・こと、は常に互いに影響しあっている。とも教えてもらった。