私が死んで生まれた日10-3【魂の記憶】
「星再生計画」の事について父はあれこれ考えを巡らしているらしく、しばらく黙っていた。母は他の人達と長の決定について話している。
考え込んでいる父の元に数人の男達が集まってきた。同時に私は男達に押しのけられ少しよろめいた。何やら深刻そうに話し合っている。これからの作戦についてだろうか・・・。
聞き耳を立てて父達の話を盗み聞きしようとしたが辺りが騒々しいのと集まってきた体格のいい男達が壁になってまったく会話が聞こえない。もっと近づこうとしていると母に呼ばれその場を離れなければならなくなった。
もどかしい気持ちで母の元へ行くと母は一度家へ戻ろうと私に微笑んだ。
「作戦の事や後の事は彼(父)に任せてあとで話しを聞きましょう」
私はまだこの場に残り父達の話を聞きたかったが辺りの騒々しさはどんどん増していて各々自分の主張をしている者がいたり不安を露わにし攻撃的になっている者もいたため、母は一度この場を離れた方がいいと判断したのだろう。
確かに無駄な争いに巻き込まれるのは面倒だ。私は母に同意して自宅へ帰ることにした。
「仲間内で言い争っている場合ではないのに・・・。」
だが彼らの気持ちもわかる。長年、星を守るために戦ってきていたのに突然 長はその星を手放すと決定したのだ。守るため、この土地に居られるため、きっと逆転できる方法があるはずと希望を捨てなかった、死んでいった者たちの願いを叶えるため、仇をうつために戦ってきたのは何だったんだと怒りが込み上げてきてもなんら不思議はない。長にしてもこの決定には心が締め付けられる想いだろう。しかしこの決定が全てを救うための一番の最善策なのだ。たとえかなりの痛みを伴う事だとしても・・・。
私達が居た長が住む大会議場と自宅まではさほど遠く離れてはいない。
母と私は徒歩で自宅まで帰ることにした。というか、お互い何も言わずにトボトボと歩いて来てしまっていた。母も私同様に歩きながら考え事がしたかったのかもしれない。
薄いピンクの大地から色とりどりの植物が所狭しと覆い茂っている。青くキラキラとクリスタルのように輝く小さな花たちは他の植物達が日の光をいっぱいに受けようと上へ上へ伸びるのとは反対に地を這うように根を張り沢山の小さな葉を広げ沢山のちいさな花を咲かせていた。まるで夜の満点の星空のように光を反射してキラキラと大地で瞬いている。近くを流れる小川は琥珀色で、心地よい音をたてて流れている。この琥珀色の水は飲めば力が沸き、浴びたり浸かったりすれば疲労が取れ傷も癒される。
もてあましたエネルギーを発散するかのようにこの星は本当に美しく輝いている。
だが、蛇族に略奪された土地にはこの輝きはもうないと聞いた。植物は死に絶え大地は黒くくすんでしまっているそうだ。エネルギーの源である鉱物をすべて取られた結果、何もない混沌の大地になってしまっているらしい。
私は私利私欲の為に他者のものを平気で奪い取る蛇族に心底嫌悪した。
この美しい景色をもう二度と見れないと思うと本当に悲しい。
生まれ変わる星も今の星と同じコアを持つ。きっと今の私と同じかそれ以上に美しい大地を子孫たちが見れるに違いないと私は確信していた。
「未来の私達の子孫と星の為に戦う」
私は戦士の両親から生まれた子供だ。幼いころから鍛錬し戦うための知識や技術は身についていると自負している。そしてこれまでの蛇族との戦いで身についた感覚も豊富だと思っている。
「私が戦いに加わることで星と皆に貢献できるはず」
むしろ戦い以外で私に貢献できることはないと思っていた。
そんな私の怒りと熱意と使命感に、母は気づいているのかいないのか終始無言のままだった。
私達がこじんまりした箱型のシンプルで真っ白な我が家へ到着して一夜明けてから父は帰宅した。
父が帰宅早々に私は矢継ぎ早に質問をしたために父が笑いだす。
「そんなに興奮するな、とりあえず大まかに決定したことを言うぞ。」
父は作戦中や作戦に関わるあらゆる任務が完了するまでの間一時的に指揮官補佐の役を引き受けた事。自分も最前線へ赴くこと、任務には母も参加する事、各々の持ち場の話や作戦開始日程や今後の動きなど丁寧に私と母に説明してくれた。
「ん?」
何か大事な事を忘れていませんか?お父様。
ここまで話し終えた父の口から私の参加任務のことを聞いていない。
まさか?!
私は任務に参加させずに引っ越し先の星に先に行っていろとでも言うんじゃ?!
「・・・・???」
父も「ん?」の表情で何の事だと言わんばかりにしらばっくれている。
いやいやいや「ん?」じゃない!「星の為に戦う」と決意している私の情熱はどうしたらいいんだ!納得できない!納得できないぞ!
「私も星の為に戦うって決めたんだから!」
私は息を荒げて怒鳴るような声で父に対して抗議した。
父は肩をすくめて、困ったじゃじゃ馬を娘に持ったものだというような表情で言った。
「お前にはお前にしかできない事があるんだぞ?」
母も大事な娘を戦いに参加さたくないのでウンウンとうなずいて父の言葉を肯定している。「私達も任務が終わったらすぐあなたの後を追うから。戦えない者達と先に行って彼らを守って寄り添ってあげてほしい。」と母は言った。
それはそうだろう、両親の気持ちはわかる今回は本当に危険な任務だから。
そうはいっても私の気分はMAX戦いに向いていたのに、戦う事しかできない私に平和な星へ向かって人々に寄り添えって・・・。強くなる事ばかり教えてきた両親からの言葉とは思えないものが飛んできた。「お前にしかできない事」って戦いの事じゃないの?!私は混乱と動揺となんだか仲間外れにされたような気分と「使い物にならない」と言われたようで落胆した。